海神

名前
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キーワード
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子孫
  1. 豊玉姫
    1. 彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊
      1. 五瀬命
      2. 稲飯命
      3. 三毛入野命
      4. 神武天皇
  2. 玉依姫
    1. 五瀬命
    2. 稲飯命
      1. 稚草根命
    3. 三毛入野命
    4. 神武天皇
      1. 手研耳命
      2. 神八井耳命
      3. 綏靖天皇
  3. 穂高見命
  4. 振魂尊
    1. 前玉命
    2. 天忍立命
出来事
  • 水を汲もうとしていた娘が、よろよろと歩く彦火火出見尊を見つけて驚いて帰り、「一人の珍しい客人が門の前の木の下におります」と言った。海神は畳を重ねて敷いて導き入れた。坐につくと、そのやって来たわけを聞いた。彦火火出見尊は実情を詳しく話した。
    海神は大小の魚を集めて問い質した。皆が言うには「知りません。ただ赤女(あかめ)赤女とは鯛の名、とある。がこの頃、口の病があって参ってはおりません」と。呼び寄せてその口を探すと、果たして失くした針を得た。

    彦火火出見尊は海神の女の豊玉姫を娶って、海宮(わたつみのみや)に留まり住んで既に三年が経った。
    豊玉姫は父に「天孫はお悲しみになり、しばしばお嘆きになります。郷土を懐かしみ憂うのでしょう」と言った。
    海神は彦火火出見尊を中に案内して、静かに語って言うには「天孫がもし故郷に帰りたいとお思いでしたら、私がお送り奉りましょう」と。
    そして手に入れた釣針を授けて、教えて言うには「この針を兄にお与えになる時、密かにこの針に『貧鉤(まじち)』と仰ってお与えなさい」と。
    また潮満瓊(しおみちのたま)潮涸瓊(しおひのたま)を授けて、教えて言うには「潮満瓊を水につけると、潮はたちまちに満ちます。これであなたの兄は溺れさせ、もし兄が悔いて助けを求めれば、反対に潮涸瓊を水につけて、潮は自ずと引くので、これでお救いなさい。こう責め悩ませれば、あなたの兄は自ずと従うでしょう」と。
    まさに帰ろうとする時に、豊玉姫は天孫に「私はすでに妊んでおります。間もなく生まれるでしょう。私は必ず波風の速い日に海浜に出ますので、どうか私の為の産屋を作ってお待ち下さい」と言った。
    彦火火出見尊は宮に帰り、海神の教え通りに従った。

    【日本書紀 巻第二 神代下第十段】
    • たちまち海神豊玉彦の宮に着いた。その宮は城門を高く飾って壮麗だった。門の外には井戸があり、井戸の側には杜の木があった。そこでその木の下に立っていると、しばらくして一人の美人が現れた。容貌は世に勝れ、侍者を沢山従えて、中から出てきた。そしてまさに玉壼で水を汲もうとした時、火火出見尊を仰ぎ見て驚き、帰ってその父神に言うには、「門の前の井戸の側の木の下に、一人の貴人がおります。骨格は常人ではありません。もし天から降られたのでしたら、天の汚れがあり、地から来たのであれば、地の汚れがあります。実にこれが妙な美しさなのです。虚空彦というのでしょうか」と。
      あるいは豊玉姫の侍者が玉瓶で水を汲もうとしたが、満たすことが出来なかった。井戸の中を見ると、逆さまに人の笑顔が映っていた。それで仰ぎ見ると、一柱の麗しい神がいて、杜の木に寄り立っていたので、帰ってその王に話したという。
      そこで豊玉彦は人を遣わして尋ねて「客人は誰であるか。なぜこの地にやって来られたのか」と。火火出見尊は答えて「私は天神の孫です」と。そしてやって来たわけを話した。海神は迎え拝んで中に入れて慇懃に仕えた。そして女の豊玉姫を妻合わせた。
      海宮(わたつみのみや)に留まり住んで、既に三年が経った。
      この後、火火出見尊は溜息を付くことが多かった。豊玉姫が「天孫は故郷にお帰りになりたいのではないですか」と尋ねると、「そうなのです」と答えた。豊玉姫は父神に「ここにおいでになる貴人は、上国(うわつくに)に帰りたいと仰っています」と言った。海神は海の魚を全て集めて、その針を探させた。一匹の魚が言うには「赤女(あるいは赤鯛という)が長らく口の病を患っています。これが飲み込んだのではないでしょうか」と。それで赤女を呼んで、その口の中を見ると、口の中に針があった。これを取って彦火火出見尊に渡した。そして教えて言うには。「針をあなたの兄君にお与えになる時、『貧窮之本(まじのもと)飢饉之始(うえのはじめ)困苦之根(くるしみのもと)原文ママ。』と呪った後にお与えなさい。またあなたの兄君が海を渡ろうとする時に、私は必ず速い風波を起こして、溺れ苦しめましょう」と。
      そして火火出見尊を大鰐に乗せて、故郷へ送った。

      【日本書紀 巻第二 神代下第十段 一書第一】
    • 娘の豊玉姫は「私は井戸の側の木の上に一人の人がいるのを見ました。顔色はとても美しく、姿は雅で、常人ではありません」と。父神は聞いて不思議に思い、幾重にも席を敷いて迎え入れた。坐すと、やって来たわけを尋ねた。詳しく事を話した。海神は憐れみの心を起こして、全ての大小の魚を呼んで尋ねた。皆が言うには「知りません。ただ赤女(あかめ)の口に病があって、来ておりません」と。または口女(くちめ)鯔(イナ)の古名。の口に病があったともいう。
      そこで急いで呼んで、その口を探すと、失った針を得ることが出来た。そして海神は「口女は今後、餌を飲み込んではならない。また不得預天孫の御膳に進めてはならない」と言った。口女の魚を御膳に進めないのは、これがそのもとである。
      彦火火出見尊が帰ろうとする時、海神が言うには、「今、天神の孫がかたじけなくも私の所へおいで下さった。心の中の喜びは、いつになっても忘れません」と。そして思いのままに潮溢之瓊(しおみちのたま)潮涸之瓊(しおひのたま)を、その針にそえて奉って言うには、「皇孫よ。幾重もの境で隔てていても、どうか時にまた思い出して、忘れないで下さい」と。そして教えて言うには、「この針をあなたの兄君にお与えになる時に、『貧鉤(まじち)滅鉤(ほろびち)落薄鉤(おとろえち)原文ママ。』と呪った後に、後ろ手に投げ棄ててお与えなさい。向かって与えてはなりません。もし兄が怒りを起こして、害をする心があれば、潮溢瓊を出して溺れさせなさい。もし救いを求めれば、潮涸瓊を出してお救いなさい。このように悩ませれば、自ら臣として伏すでしょう」と。
      彦火火出見尊はその瓊と針を受け取って、もとの宮に帰った。

      【日本書紀 巻第二 神代下第十段 一書第二】
    • 海神は自ら迎え入れた。そして海驢(みち)海驢。此云美知。今のアシカか。の皮を幾重に敷いて、その上に坐らせた。また沢山の物を並べた机を設けて、主人としての礼を尽くした。そしてゆっくり尋ねて「天神の孫が、どうしてかたじけなくもおいで下さったのですか」と。
      あるいは、「この頃我が子がやって来て『天孫が海浜で憂えておいでになる』と言っていましたが、真実は分かりませんでしたが、この事でしたか」と言ったという。
      彦火火出見尊は詳しく事の本末を話した。そして留まり住んだ。海神は、子の豊玉姫を妻合わせた。仲睦まじく深く愛し合った。
      既に三年が経った。
      まさに帰ろうとする時、海神は鯛女を呼んで、その口を探した。すると針を得た。そこでこの針を彦火火出見尊に渡して、教えて言うには、「これをあなたの兄君にお与えになる時に、『大鉤(おおち)踉䠙鉤(すすのみぢ)踉䠙鉤。此云須須能美膩。貧鉤(まじち)痴騃鉤(うるけぢ)痴騃鉤。此云于楼該膩。』と仰った後に、後ろ手にお投げなさい」と。そして鰐魚(わに)を呼び集めて尋ねるには「天神の孫が今まさにお帰りになる。お前達は幾日の内に送り奉りなさい」と。この時諸々の鰐魚は、それぞれのばらばらの日数を述べた。中に一尋鰐(ひとひろわに)がいて、「一日の内にお送り致しましょう」と言った。そこで一尋鰐魚を遣わして送った。また潮満瓊(しおみつのたま)潮涸瓊(しおひのたま)の二種の宝物を進上して、瓊を用いる方法を教えた。また教えて「兄君が高田を作れば、あなたは窪田を作りなさい。兄君が窪田を作れば、あなたは高田を作りなさい」と。このように海神が誠を尽くして助けた。

      【日本書紀 巻第二 神代下第十段 一書第三】
    • 時に豊玉姫の侍者がいて、玉鋺を持って井戸の水を汲もうとした。見ると人影が水底にあるって、汲むことが出来ず、仰いで天孫を見た。すると中に戻って、その王に言うには「私は、我が王だけが優れた麗しいお方だと思っておりました。今一人の客人を見ると、さらに勝れておりました」と。海神はこれを聞いて「試しに見てみよう」と言うと、三つの床を設けて招き入れた。天孫は手前の床で両足を拭き、中の床で両手を合わせ、内の床では真床覆衾(まとこおうふすま)の上にあぐらをかいてゆっくり坐った。海神はこれを見て、天神の孫であることを知っり、益々崇め敬った。云々。

      海神は赤女(あかめ)口女(くちめ)を呼んで尋ねた。時に口女は口から釣針を出して差し出した。赤女は赤鯛である。口女は鯔である。時に海神は彦火火出見尊に釣針を渡し、教えて言うには「兄君に針をお返しになる時、天孫は『あなたが生む末代までの子孫は、貧鉤(まじち)狭狭貧鉤(ささまじち)原文ママ。』と仰り、その後に、三度唾を吐いてお与えなさい。また兄君が海で釣りをする時に、天孫は海浜で風招(かざおき)をなさいませ。風招とは、(うそぶ)口をすぼめて息を吹き出すこと。ことです。このようになされば、私が瀛風(おきつかぜ)辺風(へつかぜ)を起こして、速い波で溺れ悩ませましょう」と。

      【日本書紀 巻第二 神代下第十段 一書第四】
    • 豊玉毘売命は父に「我が家の門に立派な人がおります」と言った。
      海神は自ら出て見て、「この方は天津日高(あまつひこ)の御子の虚空津日高だよ」と言って、すぐに宮中に入れて、美智(みち)アシカの皮を畳に八重に敷き、また絹畳をその上に八重に敷いて、その上に坐らせて、机に沢山の品々をそろえて御饗をして、その(むすめ)豊玉毘売を結婚させた。
      その国に住んで三年が過ぎた。
      火遠理命は大きな溜め息をついた。そして豊玉毘売命はその溜め息を聞いて、その父に「三年お住みになっても、溜め息などありませんでしたが、今夜は大きな溜め息をおつきになりました。もしや何かあるのでしょうか」と言った。父の大神はその婿に「今朝、我が女が話すのを聞いたですが、『三年お住みになっても、溜め息などありませんでしたが、今夜は大きな溜め息をおつきになりました。』と言っていました。何かわけがあるのでしょうか。またここにおいでになったのは、どういうわけでしょうか」と尋ねた。
      そこでその大神に、その兄の釣り針を失い、責められたことを詳しく語った。
      海神は大小の魚を悉く海に集めて、「もしやこの釣り針を取った魚はいるか」と言った。それで魚たちが言うには、「この頃、赤い鯛が、喉に魚の骨が刺さって、物を食べることが出来ないと悩んで訴えております。きっとこれが取ったのでしょう」と。そこで赤鯛の喉を探ってみると、釣り針があった。すぐに取り出し、洗い清めて、火遠理命に差し出したとき、その綿津見大神が教えて言うには、「この釣り針を、その兄君にお与えになるときに、『この鉤は、淤煩鉤(おぼち)須須鉤(すすち)貧鉤(まじち)宇流鉤(うるち)この釣り針は、心塞ぐ針、心猛り狂う針、貧しい針、愚かな針。』と呪い、手を後ろにしてお与え下さい。そしてその兄君が高い所に田を作ったら、あなた様は低い所に田をお作りなさい。その兄君が低い所に田を作ったら、あなた様は高い所に田をお作りなさい。そうなされば、私は水を掌っておりますので、三年の間は必ずやその兄君は貧しさに窮することでしょう。もしそうなることを恨んで、攻め挑んできたら、塩盈珠(しおみつたま)を出して溺れさせ、もし許しを請えば、塩乾珠(しおふるたま)を出して助け、このように悩ませ苦しめなさいませ」と。そして塩盈珠と塩乾珠、合わせて二つを授け、すぐに全ての和邇(わに)ワニ、サメの説があるが、ここでは断定しない。を集めて、「今、天津日高の御子の虚空津日高は、上の国においでになろうとしておられる。誰が幾日で送り奉り、復命するか」と言った。
      それでそれぞれ身長の長さに従い、日を限って申す中、一尋和邇(ひとひろわに)が「私は一日で送れ、すぐに帰ってきます」と言った。それでその一尋和邇に「であれば、お前が送り奉りなさい。もし海の中を渡るときに、お恐れになることがあってはならぬぞ」と言った。そしてその和邇の頸に乗せて送り出すと、約束どおり一日の内に送り届けた。その和邇が帰る時、佩いていた紐小刀(ひもかたな)を解いて、その頸につけて帰した。それでその一尋和邇は、今も佐比持神という。

      【古事記 上巻】
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