海神

名前
  • 海神【日本書紀】(わたつ)海神
  • 海神豐玉彥【日本書紀】(わたつたま)海神豊玉彦
  • 豐玉彥【日本書紀】たま)豊玉彦
  • 綿津見神【古事記】(わたつ)綿津見神
  • 綿津見大神【古事記】(わたつみのおおかみ, わたつおほか)綿津見大神
  • 海童【日本書紀】(わたつ)海童
  • 綿積豐玉彥神【新撰姓氏録抄】(わたつたま)綿積豊玉彦神
  • 綿積命【新撰姓氏録抄】(わたつ
  • 和多罪豐玉彥命【新撰姓氏録抄】(わたつたま)和多罪豊玉彦命
  • 和多羅豐命【新撰姓氏録抄】(わたら)和多羅豊命
  • 大和多罪命【新撰姓氏録抄】(おおわたつみのみこと, おほはたつ
  • 大和多羅命【新撰姓氏録抄】(おおわたらのみこと, おほはたら
  • 綿積神命【新撰姓氏録抄】(わたつ)綿積神命
キーワード
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性別
男神
  • 豊玉姫とよたまひめ【日本書紀 巻第二 神代下第十段】
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  • 布留多摩乃命ふるたまのみこと【新撰姓氏録抄 第二帙 第十五巻 右京神別下 地祇 八木造条】
出来事
  • 水を汲もうとしていた娘が、よろよろと歩く彦火火出見尊を見つけて驚いて帰り、「一人の珍しい客人が門の前の木の下におります」と言った。海神は畳を重ねて敷いて導き入れた。坐につくと、そのやって来たわけを聞いた。彦火火出見尊は実情を詳しく話した。
    海神は大小の魚を集めて問い質した。皆が言うには「知りません。ただ赤女(あかめ)がこの頃、口の病があって参ってはおりません」と。呼び寄せてその口を探すと、果たして失くした針を得た。

    彦火火出見尊は海神の女の豊玉姫を娶って、海宮(わたつみのみや)に留まり住んで既に三年が経った。
    豊玉姫は父に「天孫はお悲しみになり、しばしばお嘆きになります。郷土を懐かしみ憂うのでしょう」と言った。
    海神は彦火火出見尊を中に案内して、静かに語って言うには「天孫がもし故郷に帰りたいとお思いでしたら、私がお送り奉りましょう」と。
    そして手に入れた釣針を授けて、教えて言うには「この針を兄にお与えになる時、密かにこの針に『貧鉤(まじち)』と仰ってお与えなさい」と。
    また潮満瓊(しおみちのたま)潮涸瓊(しおひのたま)を授けて、教えて言うには「潮満瓊を水につけると、潮はたちまちに満ちます。これであなたの兄は溺れさせ、もし兄が悔いて助けを求めれば、反対に潮涸瓊を水につけて、潮は自ずと引くので、これでお救いなさい。こう責め悩ませれば、あなたの兄は自ずと従うでしょう」と。
    まさに帰ろうとする時に、豊玉姫は天孫に「私はすでに妊んでおります。間もなく生まれるでしょう。私は必ず波風の速い日に海浜に出ますので、どうか私の為の産屋を作ってお待ち下さい」と言った。
    彦火火出見尊は宮に帰り、海神の教え通りに従った。

    【日本書紀 巻第二 神代下第十段】
    • たちまち海神豊玉彦の宮に着いた。その宮は城門を高く飾って壮麗だった。門の外には井戸があり、井戸の側には杜の木があった。そこでその木の下に立っていると、しばらくして一人の美人が現れた。容貌は世に勝れ、侍者を沢山従えて、中から出てきた。そしてまさに玉壼で水を汲もうとした時、火火出見尊を仰ぎ見て驚き、帰ってその父神に言うには、「門の前の井戸の側の木の下に、一人の貴人がおります。骨格は常人ではありません。もし天から降られたのでしたら、天の汚れがあり、地から来たのであれば、地の汚れがあります。実にこれが妙な美しさなのです。虚空彦というのでしょうか」と。
      あるいは豊玉姫の侍者が玉瓶で水を汲もうとしたが、満たすことが出来なかった。井戸の中を見ると、逆さまに人の笑顔が映っていた。それで仰ぎ見ると、一柱の麗しい神がいて、杜の木に寄り立っていたので、帰ってその王に話したという。
      そこで豊玉彦は人を遣わして尋ねて「客人は誰であるか。なぜこの地にやって来られたのか」と。火火出見尊は答えて「私は天神の孫です」と。そしてやって来たわけを話した。海神は迎え拝んで中に入れて慇懃に仕えた。そして女の豊玉姫を妻合わせた。
      海宮(わたつみのみや)に留まり住んで、既に三年が経った。
      この後、火火出見尊は溜息を付くことが多かった。豊玉姫が「天孫は故郷にお帰りになりたいのではないですか」と尋ねると、「そうなのです」と答えた。豊玉姫は父神に「ここにおいでになる貴人は、上国(うわつくに)に帰りたいと仰っています」と言った。海神は海の魚を全て集めて、その針を探させた。一匹の魚が言うには「赤女(あるいは赤鯛という)が長らく口の病を患っています。これが飲み込んだのではないでしょうか」と。それで赤女を呼んで、その口の中を見ると、口の中に針があった。これを取って彦火火出見尊に渡した。そして教えて言うには。「針をあなたの兄君にお与えになる時、『貧窮之本(まじのもと)飢饉之始(うえのはじめ)困苦之根(くるしみのもと)』と呪った後にお与えなさい。またあなたの兄君が海を渡ろうとする時に、私は必ず速い風波を起こして、溺れ苦しめましょう」と。
      そして火火出見尊を大鰐に乗せて、故郷へ送った。

      【日本書紀 巻第二 神代下第十段 一書第一】
    • 娘の豊玉姫は「私は井戸の側の木の上に一人の人がいるのを見ました。顔色はとても美しく、姿は雅で、常人ではありません」と。父神は聞いて不思議に思い、幾重にも席を敷いて迎え入れた。坐すと、やって来たわけを尋ねた。詳しく事を話した。海神は憐れみの心を起こして、全ての大小の魚を呼んで尋ねた。皆が言うには「知りません。ただ赤女(あかめ)の口に病があって、来ておりません」と。または口女(くちめ)の口に病があったともいう。
      そこで急いで呼んで、その口を探すと、失った針を得ることが出来た。そして海神は「口女は今後、餌を飲み込んではならない。また不得預天孫の御膳に進めてはならない」と言った。口女の魚を御膳に進めないのは、これがそのもとである。
      彦火火出見尊が帰ろうとする時、海神が言うには、「今、天神の孫がかたじけなくも私の所へおいで下さった。心の中の喜びは、いつになっても忘れません」と。そして思いのままに潮溢之瓊(しおみちのたま)潮涸之瓊(しおひのたま)を、その針にそえて奉って言うには、「皇孫よ。幾重もの境で隔てていても、どうか時にまた思い出して、忘れないで下さい」と。そして教えて言うには、「この針をあなたの兄君にお与えになる時に、『貧鉤(まじち)滅鉤(ほろびち)落薄鉤(おとろえち)』と呪った後に、後ろ手に投げ棄ててお与えなさい。向かって与えてはなりません。もし兄が怒りを起こして、害をする心があれば、潮溢瓊を出して溺れさせなさい。もし救いを求めれば、潮涸瓊を出してお救いなさい。このように悩ませれば、自ら臣として伏すでしょう」と。
      彦火火出見尊はその瓊と針を受け取って、もとの宮に帰った。

      【日本書紀 巻第二 神代下第十段 一書第二】
    • 海神は自ら迎え入れた。そして海驢(みち)の皮を幾重に敷いて、その上に坐らせた。また沢山の物を並べた机を設けて、主人としての礼を尽くした。そしてゆっくり尋ねて「天神の孫が、どうしてかたじけなくもおいで下さったのですか」と。
      あるいは、「この頃我が子がやって来て『天孫が海浜で憂えておいでになる』と言っていましたが、真実は分かりませんでしたが、この事でしたか」と言ったという。
      彦火火出見尊は詳しく事の本末を話した。そして留まり住んだ。海神は、子の豊玉姫を妻合わせた。仲睦まじく深く愛し合った。
      既に三年が経った。
      まさに帰ろうとする時、海神は鯛女を呼んで、その口を探した。すると針を得た。そこでこの針を彦火火出見尊に渡して、教えて言うには、「これをあなたの兄君にお与えになる時に、『大鉤(おおち)踉䠙鉤(すすのみぢ)貧鉤(まじち)痴騃鉤(うるけぢ)』と仰った後に、後ろ手にお投げなさい」と。そして鰐魚(わに)を呼び集めて尋ねるには「天神の孫が今まさにお帰りになる。お前達は幾日の内に送り奉りなさい」と。この時諸々の鰐魚は、それぞれのばらばらの日数を述べた。中に一尋鰐(ひとひろわに)がいて、「一日の内にお送り致しましょう」と言った。そこで一尋鰐魚を遣わして送った。また潮満瓊(しおみつのたま)潮涸瓊(しおひのたま)の二種の宝物を進上して、瓊を用いる方法を教えた。また教えて「兄君が高田を作れば、あなたは窪田を作りなさい。兄君が窪田を作れば、あなたは高田を作りなさい」と。このように海神が誠を尽くして助けた。

      【日本書紀 巻第二 神代下第十段 一書第三】
    • 時に豊玉姫の侍者がいて、玉鋺を持って井戸の水を汲もうとした。見ると人影が水底にあるって、汲むことが出来ず、仰いで天孫を見た。すると中に戻って、その王に言うには「私は、我が王だけが優れた麗しいお方だと思っておりました。今一人の客人を見ると、さらに勝れておりました」と。海神はこれを聞いて「試しに見てみよう」と言うと、三つの床を設けて招き入れた。天孫は手前の床で両足を拭き、中の床で両手を合わせ、内の床では真床覆衾(まとこおうふすま)の上にあぐらをかいてゆっくり坐った。海神はこれを見て、天神の孫であることを知っり、益々崇め敬った。云々。

      海神は赤女(あかめ)口女(くちめ)を呼んで尋ねた。時に口女は口から釣針を出して差し出した。赤女は赤鯛である。口女は鯔である。時に海神は彦火火出見尊に釣針を渡し、教えて言うには「兄君に針をお返しになる時、天孫は『あなたが生む末代までの子孫は、貧鉤(まじち)狭狭貧鉤(ささまじち)』と仰り、その後に、三度唾を吐いてお与えなさい。また兄君が海で釣りをする時に、天孫は海浜で風招(かざおき)をなさいませ。風招とは、(うそぶ)ことです。このようになされば、私が瀛風(おきつかぜ)辺風(へつかぜ)を起こして、速い波で溺れ悩ませましょう」と。

      【日本書紀 巻第二 神代下第十段 一書第四】
    • 豊玉毘売命は父に「我が家の門に立派な人がおります」と言った。
      海神は自ら出て見て、「この方は天津日高(あまつひこ)の御子の虚空津日高だよ」と言って、すぐに宮中に入れて、美智(みち)の皮を畳に八重に敷き、また絹畳をその上に八重に敷いて、その上に坐らせて、机に沢山の品々をそろえて御饗をして、その(むすめ)豊玉毘売を結婚させた。
      その国に住んで三年が過ぎた。
      火遠理命は大きな溜め息をついた。そして豊玉毘売命はその溜め息を聞いて、その父に「三年お住みになっても、溜め息などありませんでしたが、今夜は大きな溜め息をおつきになりました。もしや何かあるのでしょうか」と言った。父の大神はその婿に「今朝、我が女が話すのを聞いたですが、『三年お住みになっても、溜め息などありませんでしたが、今夜は大きな溜め息をおつきになりました。』と言っていました。何かわけがあるのでしょうか。またここにおいでになったのは、どういうわけでしょうか」と尋ねた。
      そこでその大神に、その兄の釣り針を失い、責められたことを詳しく語った。
      海神は大小の魚を悉く海に集めて、「もしやこの釣り針を取った魚はいるか」と言った。それで魚たちが言うには、「この頃、赤い鯛が、喉に魚の骨が刺さって、物を食べることが出来ないと悩んで訴えております。きっとこれが取ったのでしょう」と。そこで赤鯛の喉を探ってみると、釣り針があった。すぐに取り出し、洗い清めて、火遠理命に差し出したとき、その綿津見大神が教えて言うには、「この釣り針を、その兄君にお与えになるときに、『この鉤は、淤煩鉤(おぼち)須須鉤(すすち)貧鉤(まじち)宇流鉤(うるち)』と呪い、手を後ろにしてお与え下さい。そしてその兄君が高い所に田を作ったら、あなた様は低い所に田をお作りなさい。その兄君が低い所に田を作ったら、あなた様は高い所に田をお作りなさい。そうなされば、私は水を掌っておりますので、三年の間は必ずやその兄君は貧しさに窮することでしょう。もしそうなることを恨んで、攻め挑んできたら、塩盈珠(しおみつたま)を出して溺れさせ、もし許しを請えば、塩乾珠(しおふるたま)を出して助け、このように悩ませ苦しめなさいませ」と。そして塩盈珠と塩乾珠、合わせて二つを授け、すぐに全ての和邇(わに)を集めて、「今、天津日高の御子の虚空津日高は、上の国においでになろうとしておられる。誰が幾日で送り奉り、復命するか」と言った。
      それでそれぞれ身長の長さに従い、日を限って申す中、一尋和邇(ひとひろわに)が「私は一日で送れ、すぐに帰ってきます」と言った。それでその一尋和邇に「であれば、お前が送り奉りなさい。もし海の中を渡るときに、お恐れになることがあってはならぬぞ」と言った。そしてその和邇の頸に乗せて送り出すと、約束どおり一日の内に送り届けた。その和邇が帰る時、佩いていた紐小刀(ひもかたな)を解いて、その頸につけて帰した。それでその一尋和邇は、今も佐比持神という。

      【古事記 上巻】
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