新羅の闘将は河辺臣瓊缶ら及びそれに従う婦女を悉く生け捕りにした。
父子・夫婦は互いに哀れむゆとりもなかった。
闘将が河辺臣に「自分の命と婦女、どちらが惜しいか」と問うと、答えて「何で一人の女を惜しんで禍を取ろうか。何といっても命に過ぎるものはない」と言った。
遂に許して闘将の妾とした。
闘将は人目を憚らずにその婦女を犯した。婦女は後に帰還した。
河辺臣はそばに行って語りかけたが、婦人はひどく恥じ恨み、「あなたは軽々しく私の身を売りました。いま何の面目でお会いできましょうか」と言って遂に従わなかった。
この婦人は坂本臣の女の甘美媛という。
【日本書紀 巻第十九 欽明天皇二十三年七月是月条】